女子に優しくされた経験が乏しい男子高校生にとって可愛いクラスメイトからの「あーん」は、人生を狂わせるには十分すぎる出来事です。
しかも相手は背が高くてスタイルもよく、食べることが大好きな美少女。
自分から話しかけたわけでもないのに隣に座ってくれる。食べ物を分けてくれる。翌日には挨拶までしてくれる。
ここまでされたらもう仕方ありません。
「もしかして俺のことが好きなのでは?」
そんな期待が頭をよぎっても誰が責められるでしょうか。
ところが彼女はほかの男子にも同じように親切でした。
それも、よりによって顔も性格もよく運動までできる爽やかなイケメンに。
まだ付き合ってもいない。告白すらしていない。そもそも相手が自分を恋愛対象として見ている保証すらない。
それなのに、すでに失恋したような気分になっている。
漫画「片山くん、召し上がれ!」は、そんな恋愛経験の乏しい男子が勝手に期待し勝手に傷ついていく過程が妙に生々しい学園ラブコメです。
読んでいるこちらも主人公の思考が理解できてしまう瞬間がある。
いや、私は違いますけどね。少なくともヘビウィンナーを食べさせてもらった程度でたぶん恋に落ちたりはしません。
「片山くん、召し上がれ!」はどんな内容?
主人公の片山くんは重度の偏食家です。
魚の生臭さや肉の獣臭さが苦手で嗅覚も人一倍敏感。香水の匂いも気になってしまうほどです。
食事に楽しみを求めておらず入学から2週間が経過しても、昼休みはゼリー飲料で栄養を補給するだけ。
そんな彼の前に現れたのがクラスメイトの飯沼みこるさんでした。
飯沼さんは背が高く豊かな体つき(※)をした美少女です。
※これは片山くんの(この豊かな体つきはこの飯から作られてたんだな…)という割とギリギリなモノローグであり、私がそのような目で見ているわけではありません
そして何より食べることが大好き。
大きなお弁当を持参し卵焼きやご飯、ヘビの形をしたウィンナーまで、実に幸せそうな表情で平らげていきます。
片山くんはそんな彼女の食事風景から目を離せません。
食べ物そのものには興味がないはずなのに、飯沼さんが食べている姿にはなぜか惹きつけられてしまう。
そして彼女の何気ない親切に触れるたび、これまで経験したことのないであろう感情を抱き始めます。
ただし飯沼さんは誰に対しても親切です。ここが厄介なんですよね。
自分だけに優しいのか、それとも誰にでも優しいのか。
恋愛経験の乏しい男子にとって、この違いは天国と地獄ほど大きい。
「俺にだけ優しいのか・・・?もしかして俺のことが・・・」というわけです。好きになるのは時間の問題です。
本作は食事への価値観が正反対の男女を中心に、思春期特有の自意識を描いている作品です。
【感想】優しさに勘違いが止まらない!見どころ3選
ヘビウィンナーを「あーん」される陰キャ男子:こんなん絶対好きになる
まず気になったのが飯沼さんのお弁当を眺める片山くんです。大きなお弁当を次々と平らげる飯沼さん。
卵焼きを食べご飯を頬張り、幸せそうな表情を浮かべる。
その様子を片山くんはじっと見つめています。
彼は重度の偏食家なので食べ物に対する興味から眺めているわけではなさそうです。
むしろ、飯沼さんが食べるときの表情そのものに惹かれているように見えます。
食べ物を口に運ぶたび目元が緩み頬がほころぶ。
本人は食事に夢中ですが、見ている側には妙な色気まで感じられる。
そんな彼の視線に気づいた飯沼さんが、ヘビウィンナーを食べさせてくれるのです。
いやいやいや。入学して間もない時期に、各生徒が距離感を探っている時期にほとんど親しくない美少女から「あーん」ですよ。
こんなことをされたら恋愛経験の乏しい男子はどうなってしまうのでしょうか。
帰宅してからも布団の中でその場面を繰り返し思い出すに違いありません。
「なんでスクールカースト底辺の俺に食べさせてくれたんだろう」
「ひょっとして、俺に気があるのか?」
「いや、あの一軍がそんなわけない。でも……」
こうして眠れない夜が始まるわけです。
もっとも飯沼さん本人には深い意味などなさそうなのが恐ろしいところ。
彼女にとってはウィンナーを見つめているクラスメイトに食べ物を分けてあげただけなのでしょう。
片方にとっては重大事件でも、もう片方にとっては昼休みの何気ない出来事。
この温度差が実に残酷です。
しかも片山くんは食べることに興味がないはずの男子。
そんな彼が食べることを心から楽しむ女子に惹かれていく。
食べ物への関心が薄いからこそ食べている人間の表情に目が向くというのも面白いですね。
「俺はシロナガスクジラが好きだ」陰キャ男子特有の空回り
個人的に強く印象に残ったのがシロナガスクジラのくだりです。
飯沼さんは食堂で開催されたカツ丼大食いコンテストに参加します。
相撲部や柔道部、ラグビー部といったいかにも食べそうな男子たちが集まる催しです。
優勝賞品は食堂の無料券10枚セット。平日の昼食に使えるなら2週間分の食費が浮く計算になります。
高校生には相当ありがたい賞品でしょう。
そんなコンテストに参加した飯沼さんは周囲の心配をよそに、幸せそうな表情でカツ丼を食べ進めていきます。
ところがその後の教室では、とある大食い系配信者の大食いについて心ない言葉が飛び交っていました。
大食いしてる場合じゃねえなとか女として見れねえわとか。
大食いを楽しんでいる人が聞けば傷つくかもしれない内容です。
そこへ飯沼さんが戻ってきます。片山くんは焦ります。
もし彼女がこの話を聞いて食べることを我慢するようになったらどうしよう。
あんなに幸せそうに食べているのに。そこで片山くんは突然シロナガスクジラについて語り始めるのです。
体長が30メートルに達することもある巨大な生き物。主食はオキアミで1日に何トンもの餌を食べる。
そんなシロナガスクジラのたくさん食べるところが好きだと熱弁します。
いや、何を言っているんだ。
クラスメイトからすれば突然クジラの豆知識を披露し始めた謎の男子です。カースト上位のクラスメイトが動物の話をしてたとはいえ…
しかも大食い女子への悪口が飛び交っていた直後ですからね。
普通なら空気を読めない変わり者として認識されても不思議ではありません。
ただ、片山くんの意図はわかるんですよ。飯沼さんにたくさん食べることは恥ずかしくないと伝えたい。
いっぱい食べる姿が好きだと遠回しに伝えたい。しかしそれを本人に直接言う勇気はない。
だからシロナガスクジラの話をする。
好きな女子を励ましたいのに本人には何も言えず、なぜかクジラの魅力を熱弁してしまう。
この不器用さが見ていてつらい。
現実の教室で同じことをしたら翌日からクジラ博士というあだ名(しかも直接言われず陰で)がつく可能性すらあります。
ところが飯沼さんは彼の発言を好意的に受け止めてくれます。
大きくてたくさん食べるクジラが好きだと。なんとクジラの形のウインナーも作ってきた。
ここですよ。
ここで片山くんの心はかなり持っていかれたのではないでしょうか。
自分でも何を言っているのかわからなくなった発言を、好きな女子が否定せずに受け入れてくれる。
陰キャ男子が一度は夢見る展開です。
「あげる!」と飯沼さんに言われ、「(またウインナー…!)えっとその…」とどぎまぎする片山くんに対し「?」とキラキラした表情で見つめてくる飯沼さんが最強に可愛いです。好きになりました。
クラスの人気者で明るくて可愛くて誰にでも親切な女子。
そんな女子がなぜか自分の不器用な言動を理解してくれる。
現実ならそう簡単にはいきません。だからこそ漫画でこういう展開を見るとつい期待してしまうんですよね。
片山くん自身はモノローグで「好きじゃない 断じて好きになったわけじゃない」と恋愛感情を認めたがっていないようですが、もう相当好きになっているように見えます。
イケメン高瀬くんの登場:嫉妬したいのに性格までいいのがつらい
そして片山くんの前に現れるのが1組の高瀬くんです。
バスケ部に所属する爽やかなイケメン。
こういう男子が登場した時点で陰キャ主人公の恋愛には暗雲が立ち込めます。
しかも高瀬くんは性格までいい。
ある日お弁当を忘れてしまった高瀬くんは、手持ちのお金で買ったパン1個だけで昼食を済ませようとします。
しかし運動部の男子高校生にパン1個ではきっと足りません。そこで飯沼さんがカロリーメイトっぽい栄養補助食品を分けてあげるのです。
これをきっかけに二人は親しくなっていきます。さて、ここで片山くんは何を思うのでしょうか。
自分に食べ物を分けてくれた。自分に話しかけてくれた。自分のことを気にかけてくれた。
だから自分は特別なのかもしれない。
そんな期待があったのに彼女はほかの男子にも同じように親切だった。
しかも相手は自分より明らかにモテそうな男子です。これはつらい。
別に飯沼さんが悪いわけではありません。
彼女は困っている人に食べ物を分けてあげただけです。
片山くんと交際しているわけでもなければ特別扱いすると約束したわけでもない。
それでも片山くんの心中は穏やかではないでしょう。
自分だけに向けられた優しさだと思っていたものが、実は誰にでも向けられるものだった。
その事実に気づいた瞬間、これまでの出来事まで違って見えてくる。
さらに厄介なのが高瀬くんを嫌いになれないことです。
高瀬くんが嫌な男ならまだ気持ちの持っていきようがあります。
「あんな男のどこがいいんだよ」と内心で悪態をつくこともできるでしょう。
しかし顔がよくて運動もできて性格までいい。
これでは嫉妬している自分の惨めさが際立ってしまいます。
相手が悪人なら怒れるのに善人だから自分の劣等感と向き合うしかない。
私はこのあたりの片山くんの心理がかなり好きです。そしてもう一つ気になったのが回転寿司での出来事。
部活が休みのクラスメイトたちが集まり半額キャンペーン中の回転寿司店へ行くことになります。
生魚や磯の匂いが苦手な片山くんも参加しますが、そこで激辛の寿司を混ぜたロシアンルーレットが始まります。
片山くんは女子生徒の鳥井さん(愛称:ぴよ)が辛い寿司を取ろうとしていると思い、とっさに横から奪い取ってしまいます。
ところが周囲からすれば他人が取ろうとしていた寿司を突然奪っただけ。当然反感を買います。
しかも実際に辛い寿司は別のものだったという何とも締まらない結果に。
片山くん、こういうところなんですよね。善意で動いているのに結果として説明が足りない。
そのせいで周囲から誤解されてしまう。
ところが飯沼さんは彼がぴよ(鳥井さん)を助けようとした可能性に気づきます。
これがまた片山くんにとっては嬉しいはずです。
ほかの人には理解されなかった自分の行動を好きな女子が理解してくれる。
しかも本人が必死に弁解したわけでもない。ここまでされると期待するなというほうが難しい。
飯沼さんは本当に優しいから、他人の優しさに気づける女子なんでしょう。
ただ、その優しさが片山くんの恋心をどこまで育ててしまうのか。
見ているこちらは嬉しいような心配なような気分になります。脳破壊展開は勘弁してください。
結末と考察:この後の展開はどうなる?
私が気になっているのは飯沼さんが片山くんをどう見ているのかという点です。
現時点での彼女は誰にでも分け隔てなく接する食べることが大好きな女子として描かれています。
片山くんにウィンナーを食べさせてくれるのも挨拶してくれるのも彼の善意を理解してくれるのも、彼女にとっては自然な行動なのかもしれません。
一方、片山くんはその一つひとつに特別な意味を見いだそうとしているように見えます。
ここに今後の恋愛を左右しそうな問題があります。
飯沼さんは片山くんに優しい。でも優しいことと好きなことは別です。
恋愛経験が乏しいとこの二つを混同してしまうことがあります。
普段あまり女子と話さない男子が明るい美少女から親切にされる。
すると相手の何気ない行動まで恋愛感情の表れに見えてくる。
自分に話しかけてくれた。トイレに行ってる間に自分の隣に座ってくれた。自分の気持ちを理解してくれた。
こうして期待が膨らんでいくわけですが、相手は最初から誰にでも同じように接していた可能性もある。
片山くんが今後、飯沼さんと高瀬くんの距離が縮まる様子を見せられたら我々読者はどうなってしまうのでしょうか。
高瀬くんが嫌な男子ならまだ諦めがつくかもしれません。しかし性格までいいとなれば話は別です。
飯沼さんが高瀬くんを好きになったとしても納得できてしまう。納得できるからこそ余計につらい。
もちろん現時点で二人が恋愛関係に発展すると決まったわけではありません。
むしろ片山くんが一方的にライバル視しているだけという可能性もあります。
そしてもう一つ注目したいのが片山くんの偏食です。
彼は食事を栄養補給の手段としか考えていません。
対する飯沼さんは食べることそのものに幸せを感じています。
この正反対の二人が今後どんな関係を築いていくのか。
飯沼さんと一緒に過ごすうちに片山くんも食事を楽しめるようになるのでしょうか。
それとも偏食は変わらないまま、飯沼さんが食べている姿を見ることに幸せを感じるようになるのでしょうか。
個人的には後者の展開も面白いと思っています。
自分は食べられなくても好きな人が美味しそうに食べている姿を見るのは好き。そんな関係も素敵だと思います。
果たして片山くんと飯沼さんの距離を縮まっていくのか。そして何より飯沼さんは彼のことをどう思っているのか。
この先の関係が気になる作品です。
まとめ:「片山くん、召し上がれ!」はこんな人におすすめ
- 可愛い女子に挨拶されただけで脈ありかもしれないと期待した経験がある人。
片山くんの思考が理解できすぎて、読んでいる途中で過去の自分を思い出してジタバタしたり夜中に叫んでしまうかもしれません。 - 明るい美少女と不器用な陰キャ男子のラブコメが好きな人。
ヘビウィンナーの「あーん」など、思わずニヤける場面があります。こんなん絶対好きになるだろ。ラブコメ全般に言えるかもですが、一人のときに読んだ方がいいかもしれません。 - 恋愛における嫉妬や勘違いを楽しみたい人。
付き合ってもいないのにほかの男子と仲良くしているだけで軽く落ち込む。これは私含む内向的な男性は身に覚えがあるのではないでしょうか。
「片山くん、召し上がれ!」は、大食い美少女の幸せそうな食事風景を楽しみながら恋愛経験の乏しい男子の不器用な感情も味わえる作品です。
飯沼さんが食べる姿は可愛い。片山くんの反応も面白い。
そして高瀬くんが登場すると途端に片山くんの恋愛が心配になってくる。
個人的には飯沼さんが片山くんのどこに興味を持っているのかが気になります。親切なだけで恋愛感情は皆無でした、モブとしか認識していませんというパターンは勘弁してください。漫画の中でぐらいいいじゃないですか…
それにしてもヘビウィンナーを食べさせてもらったうえに自分の不器用な善意まで理解してもらえるとは。
片山くん、なかなか恵まれていますね。羨ましい。本人はそう思っていないかもしれませんが。
偏食家の男子と大食い美少女がこれからどんな関係になっていくのか…
※本記事は、本ブログ管理人が作品を読んだ個人的な感想・考察です。
※記事内の画像およびセリフの引用権は、各作品の著作者・出版社に帰属します。引用は著作権法第32条に基づいています。

コメント